「氷河期世代は仕事ができない」という厳しい言葉を耳にして、その理由や背景を知りたいと思っていませんか。あるいは、ご自身がまさに氷河期世代であり、職場で「使えない」「仕事ができないおっさん」といった理不尽な評価に直面し、深く悩んでいるかもしれません。
この世代が社会に出たのは、バブル崩壊後の深刻な不況期、まさに「就職氷河期」と呼ばれる時代でした。新卒採用が激減し、多くの方が本意ではない非正規雇用という道を選ばざるを得なかったのです。
しかし、「仕事ができない」というレッテルは、本当に個人の能力だけの問題なのでしょうか。
この記事では、なぜ「氷河期世代は仕事できない」と言われてしまうのか、その社会的な背景や構造的な問題を深く掘り下げます。世代論だけで片付けられない個々の事情や、逆に企業側が今になって抱えることになった課題についても、多角的に解説していきます。
- 「仕事できない」と言われる社会的な背景
- 非正規雇用がキャリア形成に与えた影響
- 世代論と個人の能力を切り分けて考える視点
- 氷河期世代が活用できる公的支援の概要
なぜ「氷河期世代 仕事できない」と言われるのか
- 就職氷河期世代 特徴と当時の社会背景
- なぜ 見捨てた?新卒採用激減の実態
- おかしい?世代論と個人の能力の問題
- 見捨てたツケが招く管理職不足
- 非正規雇用がキャリアに与えた影響
就職氷河期世代 特徴と当時の社会背景
就職氷河期世代とは、一般的にバブル経済崩壊後の1993年(平成5年)頃から2004年(平成16年)頃に学校を卒業し、社会に出た世代を指します。政府の支援対象としても、この時期に該当する方が中心となっています。(出典:内閣官房 就職氷河期世代支援推進室)
この時代は、日本の経済が極めて深刻な不況に見舞われていました。
当時の社会背景として、平成のバブルが崩壊し、それまで「絶対に潰れない」とさえ思われていた大手銀行や証券会社までもが経営破綻する事態となりました。これが引き金となり、多くの企業が連鎖的に倒産や大規模なリストラ(事業再構築)に踏み切ったのです。
折しも、この世代は第二次ベビーブーム(1971年~1974年生まれ)の方々が多く含まれ、新社会人になる若者の数が年間500万人を超えるなど、人口のボリュームゾーンでもありました。しかし、企業側には大不況により、この大量の新卒者を採用する余力が全くありませんでした。
当時の深刻な状況
有効求人倍率が1を大きく下回り、「就職難」という言葉では生ぬるいほどの厳しい状況でした。多くの企業が新卒採用そのものを見送ったり、採用人数を前年の数分の一にまで大幅に削減したりしたのです。
結果として、膨大な数の若者が正社員としての職に就けず、社会人としてのキャリアのスタートラインに立つことさえ困難な状況に追い込まれました。
なぜ 見捨てた?新卒採用激減の実態
「なぜ氷河期世代は見捨てられたのか」という問いがよく聞かれます。この「見捨てた」という言葉には、当時の企業の苦しい事情が隠されています。
前述の通り、大不況によって多くの企業は自社の存続自体が危うい状況でした。倒産を避けるためには、あらゆるコストを削減する必要に迫られたのです。
その中で、人件費の中でも大きな割合を占め、かつ即戦力化に時間がかかる新卒採用を真っ先に削減するという経営判断が下されました。これは、既存の従業員の雇用を守るための苦渋の選択でもありました。
当時の日本には、500万人以上とも言われる新社会人予備軍をすべて正社員として受け入れるだけの経済的なキャパシティが、社会全体として失われていたのです。
これは、令和の現在から見ても非常に大きな数字であり、当時の企業がいかに苦しい選択を迫られたかがうかがえます。しかし、結果として多くの新社会人が社会から「見捨てられた」と感じるほどの辛酸をなめることになりました。
おかしい?世代論と個人の能力の問題
「氷河期世代は能力が低い」という世代論には、多くの疑問の声があります。実際、中小企業の人事担当者からは、「採用面接で見ると、これは世代の問題ではなく、ご本人の問題なのでは…?と感じるケースがほとんどだった」という率直な意見も聞かれます。
確かに、当時から飛び抜けて有能な人物や、強い意志を持って行動し続けた人は、厳しい状況下でも正社員としての職を得ていた可能性はあります。
しかし、「氷河期世代だから」という理由だけで能力が低いと断じるのは早計です。なぜなら、個人の能力だけではどうにもならない、以下のような構造的な問題点が当事者から指摘されているためです。
氷河期世代が直面した構造的問題
- 地域格差:都会に比べて地方(田舎)は求人自体が極端に少なく、選択肢がありませんでした。やっとの思いで就職できても、会社の倒産や経営難によるリストラに遭うケースも多発しました。
- 情報格差:当時はまだインターネットが一般家庭に普及しておらず、就職活動は紙の求人票や就職情報誌が主流でした。優良企業を探す手段が限られ、情報不足から不適切な労働環境の企業(ブラック企業)に入社してしまうリスクも高かったのです。
このように、個人の能力とは別に、住んでいた場所や情報へのアクセス手段といった、自分ではコントロールできない外的要因によって、その後のキャリアが大きく左右された側面は決して否定できません。
見捨てたツケが招く管理職不足
新卒採用を極端に手控えた当時の判断は、十数年から二十数年を経た今、企業経営に「見捨てたツケ」として重くのしかかっています。
氷河期世代は現在、30代後半から50代手前に差し掛かり、本来であれば組織の中核を担う管理職適齢期を迎えています。
しかし、この世代の正社員の絶対数が少ないため、多くの企業で管理職候補が深刻に不足する事態に陥っています。一つ上の世代であるバブル期入社組(社員のボリュームゾーン)が50代半ばを迎え、役職定年などで管理職ポストを退き始めています。
その後釜としてポストに座るべき氷河期世代の人材がいないのです。
人事ジャーナリストの溝上憲文氏は、この状況を「管理職の“全入”時代」と表現しています。つまり、本来の能力や適性とは関係なく、年齢順でポストを埋めるために昇進させざるを得ない状況が生まれているという指摘です。
その結果、部下の育成や指導経験が乏しいまま管理職になり、「どうしてこんな人が課長なのか」といった管理職の質の低下が現場で問題となっています。これはまさに、採用を控えたツケが現実のものとなっていると言えます。
非正規雇用がキャリアに与えた影響
就職氷河期に正社員になれなかった多くの方は、まず生活していくために非正規雇用(派遣社員、契約社員、アルバイトなど)の道を選びました。
しかし、この選択が、その後の長期的なキャリア形成に非常に大きな影響を与えています。
非正規雇用は、正社員と比べて収入や福利厚生が不十分な場合が多く、経済的な困窮や不安定な生活に直面しやすくなります。それ以上に深刻なのは、キャリアの中断や停滞です。
非正規の仕事は、責任ある仕事を任されたり、体系的な研修(OJTなど)を受けたりする機会が限られがちです。そのため、専門的なスキルや経験を積むことが難しくなります。
年齢を重ねてから正社員を目指そうと転職活動をしても、「年齢の割にスキルや経験が不足している」と企業側から見なされ、採用の壁に直面するという悪循環に陥ってしまうのです。
また、一度非正規で働き始めると、日々の生活費を稼ぐために働き続けなければならず、腰を据えた転職活動やスキルアップのための学習に踏み切る時間的・経済的な余裕を失いがちになる、という厳しい現実もありました。
「氷河期世代は仕事ができない」という評価の多面性
- 就職氷河期世代 性格悪いと言われる理由
- うるさい上司と見なされる背景
- 仕事 できる人は本当にいないのか
- 有能な人材はどこにいるのか
- 活用できる公的支援とサポート
- 総括: 氷河期世代 仕事できない問題とは
就職氷河期世代は性格悪いと言われる理由
「氷河期世代は性格が悪い」「ひねくれている」といったレッテルも、彼らが置かれてきた厳しい環境と無関係ではありません。
例えば、司法試験などに敗れ、無職の空白期間を経て苦労の末に公務員になった方の中には、役所特有のスピード感や多岐にわたる調整力についていけず、戸惑うケースがあります。周囲からは「仕事ができないおっさん」と陰で言われ、自己否定を強めてしまうのです。
長年の非正規雇用や不安定な立場で「正社員としての経験を積めなかった現実」は、安定した職を得た後も、拭い去りがたい心の傷としてのしかかります。
職場で感じる居場所のなさや劣等感が、結果として他者に対して攻撃的になったり、心を閉ざしてしまったりすることがあるかもしれません。
また、一部の管理職になった氷河期世代には、自分が大変な苦労をしてその地位を得たという強い自負から、年上のバブル世代の部下を「たいした苦労もせずに入社したのに、仕事もろくにできない」と見下すような傾向が指摘されることもあります。こうした振る舞いが、周囲から「性格が悪い」と映る一因となっている可能性が考えられます。
うるさい上司と見なされる背景
一方で、氷河期世代の上司が若手社員から「うるさい」「細かい」と見なされる背景には、現代の職場特有の深刻なコミュニケーションギャップが存在します。
氷河期世代が若手だった頃は、上司からの厳しい指導が当たり前で、ハラスメントという概念もまだ希薄な時代でした。彼ら自身、そうした厳しい指導(時には理不尽なものも含め)に耐え、我慢することで成長してきたという原体験を持っています。
コミュニケーションのすれ違い
現代の職場ではハラスメントへの意識が急速に高まりました。同時に、若手社員はSNSなどテキストベースのフラットなコミュニケーションに慣れています。
そのため、氷河期世代の上司は、部下を指導したくても「ハラスメント」と受け取られることを恐れ、どう距離感を掴めばよいか悩んでいます。「ちょっと一杯」といった業務時間外のコミュニケーションも激減しました。
その結果、上司と部下の対面でのコミュニケーションが希薄になり、仕事のノウハウや暗黙知といった重要なスキルの伝達がうまくいかないという問題も生じています。
仕事 できる人は本当にいないのか
「氷河期世代に仕事ができる人はいない」というのは、明らかに誤った認識です。彼らは、厳しい採用選考をくぐり抜け、入社後も経済の右肩下がりの時代に常にリストラの恐怖と隣り合わせで生き抜いてきた世代です。
実際、ある調査によると、氷河期世代が「氷河期だったからこそ身についたもの」として、以下の点が挙げられています。
- 精神面でのタフさ(47%)
- どんな局面でも対応できる臨機応変さ(34%)
「自分の専門性を磨いていかないと、いつ会社がなくなってもおかしくない」という強い危機感を持ち、主体的に努力を続けてきた優秀な人材も数多く存在します。ただ単に、世代という大きなくくりで「仕事ができない」と評価することはできないのです。
有能な人材はどこにいるのか
では、「氷河期世代なら、能力が高い有能な人物がまだ非正規などで眠っている」というのは本当でしょうか。
これについては、採用の現場からは「徳川の埋蔵金を探すようなもので、夢物語だ」という厳しい意見も人事担当者からは聞かれます。有能なら、とっくに正社員になっているはずだ、という論理です。
しかし、当事者の視点に立つと、能力がありながらも不本意なキャリアを歩んでいる人々は確実に存在すると言えます。
前述の通り、地方にはそもそも仕事がなく、情報格差も大きかった時代です。生きるために、まず目の前の非正規の仕事に飛びつき、正社員登用のタイミングや転職の好機を逃してしまった有能な人材は、決して少なくありません。
彼らは特定の業界や職種に固まっているわけではなく、今も非正規雇用やフリーター、あるいは無業者として、社会の様々な場所に埋もれている可能性があるのです。
活用できる公的支援とサポート
現在、国や自治体は、こうした状況を踏まえ、就職氷河期世代の支援に本格的に力を入れています。もし今、仕事探しやキャリアチェンジに悩んでいるのであれば、これらの公的支援を活用するのも一つの有効な方法です。
以下に代表的な支援機関とその特徴を紹介します。
| 支援機関名 | 主な特徴とサポート内容 |
|---|---|
| ハローワーク (公共職業安定所) | 全国の求人情報を網羅しています。「就職氷河期世代専門窓口」が設置されている場合も多く、履歴書の書き方や面接対策、職業訓練(スキル習得)など、就職活動全般を無料でサポートしてくれます。 |
| サポステ (地域若者サポートステーション) | 厚生労働省委託の支援機関で、主に15歳から49歳までの方が対象です。「何から手をつければいいか分からない」といった悩みに寄り添い、一人ひとりに合った支援プログラムを伴走型で提供します。 |
| 各種支援機関 | 引きこもり状態にある方や、社会との接点が長く途絶えている方に対し、生活サポートを含めた、じっくりと働く準備ができるプログラムを提供しているNPOなどの機関もあります。 |
| 厚生労働省の支援サイト | 「就職氷河期世代活躍支援プラン」として、この世代を対象とした採用枠を設けている自治体や企業の情報提供、専用窓口の設置などをポータルサイトで広く周知しています。 |
これらの支援は、年齢や現在の状況によって利用できるものが異なります。まずは最寄りのハローワークや自治体の窓口、または厚生労働省の「就職氷河期世代活躍支援プラン」特設サイトなどで情報を確認し、相談してみることをお勧めします。
総括: 氷河期世代 仕事できない問題とは
最後に、「氷河期世代は仕事ができない」という問題について、この記事の要点をリスト形式でまとめます。この問題は、単なる個人の能力ではなく、社会全体で考えるべき複雑な構造を抱えています。
- 「仕事できない」という評価は世代論であり個人差が大きい
- バブル崩壊後の大不況で新卒採用が激減した背景がある
- 第二次ベビーブーム世代と重なり求職者数が非常に多かった
- 当時の企業には大量の新卒者を受け入れる余力がなかった
- 世代の問題ではなく個人の問題という人事担当者の視点もある
- 一方で地方の仕事不足や情報格差など構造的な問題も存在した
- 新卒採用を見捨てたツケが現代の管理職不足を招いている
- 非正規雇用が長くスキルアップの機会を逃した人が多い
- 長年の劣等感が「性格が悪い」と見られる一因の可能性
- 氷河期世代の上司はハラスメントを恐れ若手と距離ができやすい
- 厳しい時代を生き抜いた精神的タフさを持つ人も多い
- 有能な人材が非正規のまま埋もれている可能性は否定できない
- ハローワークやサポステなど公的な支援策が用意されている
- ライフステージの変化(介護など)と仕事の両立が困難な場合もある
- この問題は社会全体で考えるべき構造的な課題である



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